surviving in a female-dominated society やめられない止まらない、愛しい女社会ウォッチング|龍淵絵美

<right> 母は5人姉妹、私は3人姉妹、そして私の娘は2人姉妹。思いきり女系家族に育った私が就職したのは、強い女性たちと少数の気弱な男性で構成される、モード誌編集部でした。“おしゃれで気取った龍淵(タツブチ)さん”を装いながら、密かに内包する 『ちびまる子』のような観察力とどうにも抑えられない分析癖。そんな私の核のルーツは、古い家の格式や伝統、嫁姑関係に苦労する女系家族から生まれたもの。 <br> 幼少期の私は、自己表現が困難だった時代に、ささやかな幸せを求める母世代の女性たちの会話にどっぷり浸かりながら、「ママは家を追い出されたらお手伝いさんしかお仕事の選択肢がないからね。自分の足で立てるひとになりなさい」という母の期待を、痛いほど感じていました。彼女たちを観察し、むしろ真反対の生き方を目指さざるを得なかったがゆえに、何かにつけてどうやったらそこに到達できるかと考え、様々な女性の生き方サンプルを分析する癖がついたといえます。 <br> 癖はやがて毎日やらなければスッキリしない習慣となり、ファッション業界を土壌に種子だったものがグイグイと芽を伸ばし成長。それはまるで筋トレのようで、強く個性的なファッション業界の女性たちの服装、会話、仕事、ライフスタイルを観察するうちに、どこに発表するわけでもないけれど、求められればすぐにキャラクターマッピングが作れるほどに!同時に私の核(観察力と分析癖)は、女性社会をうまく立ち回るための必要な手段となり、コレクションやトレンド分析、おしゃれスナップ特集を作る上でも重要なテクニックであったといえましょう。 </right> <left> 刺激的で楽しかったはずの仕事がだんだんと繰り返しになり、「トレンドを追いかけるだけの人生の先に幸せのゴールってあるの?」。そんな疑問がふつふつと湧いてきた30代半ば。36歳でやっとこさ結婚し、37歳で子どもを産み、私の芽は咲く場所を少し変えていきます。 <br> 新しい花壇は港区ママワールド。朝からパーフェクトに美しいキラキラママたちとランチをするのは、たくさんの発見と学びがありましたが、どっぷりそこに根を下ろせないソワソワがつきまといます。元来家庭的な人間でない自分は、「良い母にならねば!」という責任感はあれど、仕事での満足感を知ってしまった後に、家庭や趣味が人生の目標にはなりませんでした。私は自分の人生の命題(最重要課題)を探し続けました。求めていたものは、「生活のための仕事」、「家庭への愛情と責任」、それらとは別の何かです。 <br> コアバリューを高めるべく、フリーランスディレクターとして必要とされる仕事をできる範囲で受け続けました。新しい仕事は出会いを運んでくれ、独身時代のモード系女子、ママワールドで出会った主婦のママ友に加え、女性起業家やファッション分野以外の女性たちが続々登場。いま振り返れば40代は、女性観察の絶好のステージでもあったといえます。 <br> それでも「これ!」という手ごたえがないまま、50代を迎え、「いまのままは嫌」という恐怖と、「私って何?という気持ちでスレッズエッセイを何気なく始めたのが2023年。書くこと以外の他のことがどうでもよくなるような、猛烈な執筆スイッチが入ったその年の年末。ついに自分の本当の興味、ひいては人生の命題は、「女性と時代」を表現することであり、それこそが自分にとってのモードであると、急に光が差し込むようにビビッと訪れる瞬間がやってきました。 </left> <right> 若かりし頃はビジュアルであった表現が、いまは「ことば」。結局やっていたことは30年間、一本筋が通っており、続けてきたことは間違いではなかった。私の小さな種子は芽となり、いまようやく長い時間かけて蕾になり、勢いに乗って自著まで出版。この先、大輪の花になるかどうかはさておき、せっせと芽のお手入れをしながら育て続けることでしか到達しない何かがあるのは確かです。 <br> 自分のなかの違和感を誤魔化さない。ひとと同じを求めない。そして自分を諦めない。強い核を手に入れるのは、孤独な旅となるかもしれませんが、目の前の楽しさや集団の意見に流されず、凛と立てるひとでありたい。多数決の意見と「いいね!」の数が、いつも正解とは限りません。 <br> ひとの核とは、もともと備わっている小さな種子なのでしょう。どこの土に植え、どう育てていくかが生きるセンスであり、いまの時代には流行らない「やりとげる根性」ってやつが、いちばんの肥料なのかもしれませんね。 </right>

the book behind her novel カウガールたち|山内マリコ

時代の空気を繊細にすくい取る筆致で、多くの読者の共感を集める小説家、山内マリコさん。デビュー作『ここは退屈迎えに来て』をはじめ、『アズミ・ハルコは行方不明』や『あのこは貴族』など、これまでに発表した作品の多くが映画化されている。また、アートやカルチャーにも造詣が深く、その活躍の場は多岐にわたる。そんな彼女にも、かつて思い悩む時期があったという。“小説家になりたい”と悶々としていたとき、その思いに芽が出るきっかけとなったのが、アメリカの作家トム・ロビンズの小説『カウガール・ブルース』との出会いだった。

optimistic solitude 楽天的な孤独|寿木けい

日常の景色を鋭い視点で描いた、滋味あふれる文章で人気を集めるエッセイストの寿木けいさん。元は編集者で会社員をしながら執筆業を始め、3年前には長く暮らした東京を離れ山梨に移住。そこでは古民家を改修した宿の主にもなった。5人姉妹の末っ子として生まれ、いつもひとりでいたことが生き方に大きく影響しているという。時に大きく舵を切りながら進むしなやかな人生、そして豊かな表現の背景にある孤独について。

a story of my grandmother 大草原の小さな家と大きな大きな私の家|小林エリカ

作家・小林エリカさんは、放射能の発見や戦争など歴史の記録に残る事柄を作品のテーマとして扱いながら、そこに地続きにあったはずの日常にも目を向ける。歴史に名を刻むことも書き留められることもなかった、誰かの人生の尊い瞬間。それを描きたいという強い思いの根底には、彼女の祖母の存在がある。