dialogue between two artists 無邪気に遊ぶようにアイディアを形にする|永戸鉄也 × 篠崎恵美
dialogue between two artists 無邪気に遊ぶようにアイディアを形にする|永戸鉄也 × 篠崎恵美

dialogue between two artists 無邪気に遊ぶようにアイディアを形にする|永戸鉄也 × 篠崎恵美

photo misaki kawabe
text aika kawada

2024.05.15

〈Pedal & Senza(ペダル アンド センツァ)〉の誕生には、2人のアーティストが携わっている。これまでも、数々のプロジェクトでコラボレーションを重ねてきたアートディレクターの永戸鉄也とフラワークリエーターの篠崎恵美だ。ブランドのコンセプトやネーミングをはじめ、永戸がパッケージデザイン、篠崎が調香を手がけている。そんなふたりが語る、それぞれの原点、そして無邪気で嘘のないクリエイションとは。

永戸鉄也(ながと・てつや)

高校卒業後に渡米。1996年に帰国し、アーティストとしてコラージュ、写真、映像作品を制作。個展やグループ展を開催する。広告やパッケージ、ミュージックビデオ、ドキュメンタリー映像、グラフィックデザインなどを手がける。活動する領域は、音楽やファッション、カルチャーなど幅広い。

instagram @tetsuyanagato


篠崎恵美(しのざき・めぐみ)

店内装飾からウィンドウ装花、雑誌、広告、CM、MV、イベントでの大型なインスタレーションなど、花にまつわる創作活動を国内外で行っているクリエイティブスタジオ〈edenworks〉の主宰。フラワーショップ「edenworks bedroom」、ドライフラワーショップ「EW.Pharmacy」、植物のコンセプトショップ「conservatory by edenworks」、花と人を繋ぐフラワーショップ「ew.note」など、さまざまなお店を展開している。

instagram @megumishinozaki

 

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—— 何がきっかけで知り合いになられたのでしょうか。

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永戸鉄也:広告の仕事で初めてお会いしました。僕がアートディレクターとして入ったクリスマスキャンペーンの撮影で、篠崎さんは撮影の装花とウィンドウディスプレイを担当していました。すごく大変な現場だったので、自然と絆が深まったんですね。

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篠崎恵美:永戸さんはクリエイティブ業界の先輩で、知り合う前から手がけられた広告やミュージックビデオなどを拝見していました。世代的に周りにはファンがいっぱいいて(笑)。あとは、永戸さんが関わっているイベントで、私が装花をしたことも。近くにはいて、一方的に知っていました。

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永戸:知り合いから、おもしろいフラワークリエイターがいるとは聞いていたんです。初めて会ったときに、この方なんだと思ったのを覚えていますね。

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篠崎:永戸さんのコラージュ作品を見て、私の活動やフラワーショップと近いものがあると思っていました。お花屋さんって、鮮度が落ちた花を捨てることも仕事の一環なんです。それを捨てずにドライフラワーにするコンセプトのお店をやっていて。永戸さんも古い雑誌や書物を使ってコラージュ作品を作られているので、「似ているね」と深く共感してくださったんです。よく撮影現場に持ってきてくれる古書や古雑誌のページが本当に素敵で。宝物だなって思う。それは、私にとって店頭から引いた花々と同じなんです。

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—— 捨てられてしまうはずのものを作品に昇華する。“再生”が、おふたりの共通点ということでしょうか。

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永戸僕の場合は、意図して再生をテーマに掲げているわけではないんです。それよりも、家にいっぱい集まっちゃったものの形を変えてみようという感じ。そういうものから僕自身が解放されたいというか。どちらかというと、手放したい派なのかもしれません。収集癖はあるけれど、コレクターではないですし。僕にとって古書や古雑誌は、あくまで絵の具みたいな存在。すでにあるものから、使える部分を引き出すというか。それに印刷物って数があるだろうし、古本屋で誰かに買われた本が再び読まれる可能性はあるけれど、僕が作品にしたところで、減っても増えてもいないというか。篠崎さんとは、そう意味では少し違うのかもしれない。

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篠崎下積み時代に、まだかわいい花を捨てなくてはならないのが苦しくて。でも、花屋は花がないと成立しない。これからも仕事を続けていくのであれば、この嫌な習慣を変えないといけないと思っていました。ドライフラワーショップのコンセプトは、それで考えつきました。花は生き物なので、敬意を表したかったんです。新しいものを使って何かを作るのは、誰でも素敵にできること。いい花や高価な花でゴージャスな作品を作るよりも、いま手元にあるもので何か素敵になることを考えていきたいといつも思っていました。それで、ドライになった花で何ができるかを考え始めたんです。

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2019年に、篠崎が運営するドライフラーワショップ〈EW.Pharmacy〉で開催した、永戸の個展「KASHIKA」。

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花をモチーフにしてコラージュ作品を制作するのは、自身初の試みだったという

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—— 一緒に仕事をするとき、お互いの個性をどのように1つの作品にしていますか。

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篠崎話すときはお互い無邪気。子供時代に戻るというか(笑)。考えを出し合って「いいね、いいね!」みたいな感じ。

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永戸:一緒に遊んでいる感じですね。自分の作品では、あまり花を使ってこなかったのですが、篠崎さんとの出会いを機に花のモチーフが自分の中で普通になったんです。それまでは、花や人物がない世界観が好きでしたが、もっと有機的なものが入ってくるようになった。

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篠崎:お花の仕事をしているので、アートディレクションをしていただくことで、新しい表現が生まれるのが嬉しいですね。いつも「どうなるんだろう」と仕上がりを楽しみにしています。

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—— 今回のブランディングを依頼された際はいかがでしたか。

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永戸:〈Pedal & Senza〉は、100%自由な条件下で、すごく解き放たれて意見交換ができた。ブランドを立ち上げるにあたって、名前から任せていただけたことに大きな意味があったと思います。

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篠崎いろいろな観点で考えを巡らせられたんです。そういうお仕事って滅多にない。「こういうイメージにして欲しい」というお仕事だと、できることはある程度限られてくるし、可能性も狭まってしまうことが多いので。それに、意見を出しあった後に、ちゃんと寝かせることもできました。一度、自分自身も寝て、もう一度新しい気持ちで見直す作業って本当に大事なんです。

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永戸:一度、発酵させて、ちょっと俯瞰して冷静に見てみる。ブランドの世界観が、ふたりで生み出した名前から構築されていきました。

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—— 名前はどのようなプロセスを経て考えついたのでしょう?

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篠崎粘土や花をどう表現していこうかと話し始めて、いろんな角度から探っていったんです。〈Pedal & Senza〉を作っているスタッフが音楽を好きなので、音楽の要素があってもいいのではないかと。

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永戸そこから楽譜で使われる記号などをリサーチしたら、“センツァ”というマークを見つけたんです。これが花のように見えて、ピンときたというか。その後、“ペダル”というマークの存在にも気づき、一体これはどんな意味なんだろうと調べました。

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篠崎:「センツァ」はピアノのペダルを放すという意味で、「ペダル」はペダルを踏むという意味なんです。2つの記号がセットというのも、決め手になりました。いまは多様性の時代で、性別などを限定しない潮流にも合っているんじゃないかと。

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永戸ペダルを放して音の響きを止めるという指示なのに、花のようなマークだという点にとにかく魅せられてしまって。開花しているのに、音が消える合図になっているのが、すごくドラマチックで僕らに刺さった。記号意味を深堀りしていますが、「すごいものを見つけちゃったよね」って。

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篠崎死ぬということは、生まれるということ。その逆も然りで、生まれることは、死ぬことでもある。死をネガティブにとらえずに、新しいスタートなんだと。一度、音が止まっても、また新たな音が響く。始まりと終わりが一対になっているのが素敵だと思いました。

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—— その後、調香など具体的な話になっていったと。ブランド名は、香りを作るうえでヒントになりましたか。

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篠崎香りは、「doux(ドゥー)」と「pesante(ペザンテ)」というネーミングに。いずれも楽譜に記されるピアノの弾き方を指示するための言葉なんです。「doux」は穏やかに、優しく、心地よく弾く。「pesante」は音を長く、テンポを遅く、荘重に弾くことを示しています。この意味から着想を得て、香りを選んでいきました。

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—— おふたりが一緒に仕事をする醍醐味は? それから、コミニケーションから、いいアウトプットに仕上げる秘訣があれば教えてください。

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永戸お互いに、未開の地に踏み込もうとしていること。そこから何か新しいものを引っ張りだしてこれるのは、なかなかないことだと思う。1人ならできるかもしれないけど、2人でできることは稀なのでは。一緒に仕事をしていて「そうじゃないな」とか「もっとこうしたらいいのに」と思うことがないんです。全く異なる提案をしたとしても、一応体裁を保つためだったりする(笑)。

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篠崎嘘がない、素直なやり取り。仕事でも、何かを偽ったりしないようにしています。そうしないと、つまらなくなってしまうので。あとは、プロジェクト以外の話をよくしますね。人生相談とか、別の仕事の話とか、最近あったことことか。全然違う話もして、それでまた戻ってくるみたいなことを繰り返していました。

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永戸いろんな会話をした上で、全てがつながって形になっていると思いますね。とはいえ商品だし、いいものにしたいと考えていました。ちゃんと売れる佇まいで、一番素敵な形で店頭に並んで欲しいし、多くの人に愛され続けて欲しいなと。

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篠崎新しく何か作る際に、無駄になるものは作りたくないという気持ちは常にあります。私たちが売れることだけを考えて何か提案しても、嘘になってしまうし。お金にしたいというより、作るからには、たくさんの人の手に渡って喜んでいただきたかった。純粋に楽しんで取り組んだからこそ、手に取ってくれた人たちに伝わっているのだと思います。

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永戸:裏表のないプロジェクトなんです。僕らは少人数でインディーズバンドみたいなもの。ローンチから2年目を迎えられたばかりですが、この世界観がこれからどう広がっていくかが楽しみですね。

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