the stage was always where I could let myself go 私を解き放つ表現活動の場|松浦りょう
the stage was always where I could let myself go 私を解き放つ表現活動の場|松浦りょう

the stage was always where I could let myself go 私を解き放つ表現活動の場|松浦りょう

photo eri morikawa
text nico araki

2024.10.15

俳優・松浦りょうが持つ独特でアンニュイな雰囲気は、一度見たら忘れられない。唯一無二の存在感を放ち、見る者に強い印象を残す。実際に話してみると、彼女が内に秘めた芯の強さに気づかされる。それは、これまで自分自身と真摯に向き合い、さまざまな葛藤を乗り越えてきたからだろう。感受性が豊かなために多くの悩みを抱えてきた彼女を支えたのは、表現の場に身を置くこと。バレエにはじまり、モデル、ボーカル、俳優といった、幼少期から続けてきた表現できる場こそが、彼女の居場所だった。

松浦りょう(まつうら・りょう)

1995年生まれ、徳島県出身。映画『渇き。』(14')でデビュー。映画『眠る虫』(20')で初主演を務め、MOOSIC LAB2019長編部門グランプリを獲得。映画『赦し』(23')では、17歳で殺人を犯した加害者役を演じ、注目を浴びた。現在、映画『あるいは、 ユートピア』(24') 、映画『くまをまつ』(24') の公開を控えているほか、主演を務める短編映画『オン・ア・ボート』(24')が、劇場公開に向けて進行中。

instagram  @ryomatsuura

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シャイな心で

立ち始めた表舞台

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松浦りょうさんを知ったのは、彼女がモデルとして活動していた頃。たまたま目にした写真では、ふんわりとやわらかな雰囲気が漂いながらも、どこか強い意志を秘めているような印象。それは、“ミステリアス”という言葉だけでは片付けられない、奥深い魅力だった。現在、俳優としてさまざまな役をこなす彼女は、スクリーンのなかでも一際存在感が光る。自身を「シャイ」と語る彼女だが、なぜか舞台に立つときこそ自然体でいられたという。

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「いろんな習いごとをしてきたなかで一番長いのは、幼稚園生のときから10年近く続けていたバレエ。ふだんはすごく恥ずかしがり屋で内気な性格なのに、発表会のステージに立つと、堂々としている子でした。バレエのスキルは高くないにも関わらず、自信満々に笑顔で踊っていたので、その表情だけはいつも褒められていた。振り返ってみると、子どものころから“表現すること”がとても楽しかったのだと思います」

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そんな松浦さんが、学生時代にもっとも没頭したのはバンド活動。JUDY AND MARYの曲をきっかけに音楽に興味を持ち、バンドに憧れて、軽音楽部がある中学校を選んで進学した。いつしか歌うことが、思春期の感情を吐き出す術になっていく。

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「5人編成のバンドでボーカルを担当。学校生活ではあまり協調性がなく、人と行動をともにするのが苦手でしたが、そういった日々抱えている心情を、歌でアウトプットするのがルーティンになっていました。同時に、ステージに立つことが、唯一自分で自分の存在を認められる瞬間でもありました」

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役者という仕事によって

解放された思春期

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学業と並行して、モデル活動をしていたが、しばらく自分の容姿にコンプレックスを抱えていた。大学生になって環境が変わり、だんだんとそれが自分の個性だと気づくことができたという。役者として活動しはじめたのもこの頃。デビュー作『渇き。』(14 ')では、明るい高校生役を演じた。本格的に俳優になりたいと思ったのはこの作品に出合えたからだ、と当時を振り返る。

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「初めて参加した映画の撮影現場は、なにもかもが衝撃的でした。それまでに経験したことのないことばかりで、とても刺激的。周りの熱量に圧倒されておいていかれないように必死。いただいた役は、ギャルの女の子だったので、自分のなかにある“ギャル要素”を引き出して、最大限に表現するのは面白かったです。そこで、まだまだ自分の引き出しはたくさんあるはずだから、ほかの役をもっとやってみたいと思いましたね」

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個性こそが俳優の魅力。

自分らしさを築いた10年

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俳優として芝居をはじめたことで、今まで悩んできたコンプレックスこそが、自分の強みだと知ることができた。

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「私は昔から喜怒哀楽が激しくて、よく言えば感受性が豊か。その気質をネガティブに捉えていた時期もありましたが、芝居をするようになって役づくりに活かせるのではないかと感じはじめました。自分が映画鑑賞するときも、登場人物に感情移入できるかどうかでその作品への愛着に大きく影響する気がします。だからこそ役者の立場に立っても、演じる役に対してどこかしら共感できるポイントを探す作業を大切にしています」

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役づくりで思い入れのある作品として、先日クラウドファンディングを実施していた映画『オン・ア・ボート』(24')をあげてくれた。劇中では、ひとまわり年上の男性と結婚し、郊外にマイホームを構えた「高橋さら」という女性を演じている。

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「台本を読み込んでも、この役の心情を完全には読み取れない部分がありました。なぜ彼女はこんな行動や発言をするのだろうかと、本当に理解できない箇所が多々あった。撮影の直前まで監督とディスカッションを重ねて、二人で『高橋さら』という人物を築き上げていきました。言葉の微妙なニュアンスひとつで役のイメージは変わってしまうし、監督と役を擦り合わせていくのはものすごく繊細で難しい作業。撮影は3日間だけでしたが、私の中ではとても濃密な時間でした。そういう共同作業ができたので、この作品に深い愛着があります」

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彼女の引き出しはまだまだ尽きない。今後もいろんな役に挑戦していきたいという。

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「いただいた役を深く理解し、解像度を高めていく作業がとても好きなんです。この人はどういう家庭環境で生まれ育ったのか、学生時代はどう過ごしたのかなど、台本と睨めっこしながら想像し、役への理解を深めていく。たとえ、はじめはその人物を理解できなかったとしても、だんだんと自分の中で理由を見出すことで腑に落ちる。そのひとときは、撮影中とはちがった幸福感があります。俳優業が向いているかどうかよりも、この作業がとても好きだと言えるのは自分でもうれしいです」

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