an exploration into material brilliance 素材への好奇心が切り開いたジュエリー作り| 岡本菜穂
an exploration into material brilliance 素材への好奇心が切り開いたジュエリー作り| 岡本菜穂

an exploration into material brilliance 素材への好奇心が切り開いたジュエリー作り| 岡本菜穂

photo anna miyoshi
text aya sasaki

2025.12.15

ジュエリーブランド〈SIRI SIRI〉のデザイナー岡本菜穂さんは、ふとしたきっかけからジュエリーデザインの道に進んだ。ゴールドやプラチナ、ダイヤモンドなどプレシャスマテリアルを使うことが主流のなかで、岡本さんが選んだのは、ガラスや籐といった暮らしに根ざした素材。そのクリエイションは、ジュエリー業界に新風をもたらした。岡本さんのアイディアはいかにして生まれ、〈SIRI SIRI〉と共にどのように磨かれてきたのか、その原点を振り返ってもらった。

岡本菜穂(おかもと・なほ)

〈SIRI SIRI〉デザイナー。桑沢デザイン研究所を卒業後、インテリアショールームで勤務し、2006年に〈SIRI SIRI〉を立ち上げる。建築やアートへの関心を背景絵に、モダンなデザイン性と、自然素材そのものの魅力を活かした造形を追求。日本の伝統技法も取り入れ創作活動を続けている。

instagram @siri_siri_official

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何気なくスタートした

ジュエリー作り

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「私はもともとインテリアの世界でキャリアをスタートしました。ショールームで働いていた時、家具と一緒にガラス製品やラタンのバスケットなどを毎日のように目にしていて、インテリアのプロダクトに使われる素材のジュエリーがあったら、金属や宝石を使っていなくても身近に感じてもらえるのではないかと思ったんです。それが、ジュエリーを作り始めたきっかけでした」

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デザイン学校を卒業している岡本さんだが、それまでジュエリーをデザインしたことはあったのだろうか?

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「いえいえ、まったくありませんでした。自分で作ってみようと思った時も、ジュエリーデザイナーとして独立しようとか、このショールームで自分の商品を売りたいとか、そういう強い気持ちはなくて、本当になんとなくでした(笑)。素材への興味と、私自身アンティークジュエリーが好きだったので、そういう佇まいのものがあったらいいなというぐらいで」

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ショールームへ出勤する毎日。限られた時間でデザインすることに、大変さはなかったのだろうか。

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「手を動かすことが好きなんです。子供の頃から、私の家では、自分が欲しいものや身の周りのものは自分で作るのが当たり前だったので、慣れていると言いますか。そうなったのは、建築家であり画家、さらにはかつて飛行機エンジニアでもあった父の影響が大きいと思います。例えば、着せ替え人形の洋服を作ったり、ミニ四駆の車を作ったり、本格的な紙飛行機の本から模型を作ったり。仕事をしている父の近くで、兄と二人で何かを作りだすことが遊びだったんです」

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子供の頃の記憶で、もう一つ深く覚えていることがあるという。

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「建築家の家だったので、インテリア素材のカタログがたくさんありました。フローリングや金具など、建材のパーツがずらりと表になって載っていました。父から使わなくなったカタログをもらって、自分の好きな素材を切り抜いたり、表そのものも好きだったのでコラージュしたりして、私だけの素材集を作っていました」

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素材へのアンテナと

和の佇まい

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〈SIRI SIRI〉設立当初から、ガラスと籐を用いた独自のジュエリーで、一線を画す個性を放っていた。その原点には、子供の頃からの素材への強い興味が大きく影響していたようだ。しかし、成長とともに他のものへの興味も芽生え、中高生の頃には抽象画やグラフィックデザインに惹かれるようになった。素材集の代わりに父が持っていたデザイン本を眺めるなどして、自然とデザインの道へ。そしてその後インテリアの世界へ進むが、ジュエリーというフィールドはまた別の表現の場だった。

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「インテリアに比べると、ジュエリーは物理的にかなり小さい。でも小さくても、ひとつだけで成立する立体物です。振り返ってみると、学生時代も平面より彫刻などの立体の課題の方が得意だったんです。それに、平面は絵の具で絵を描くことがメインですが、立体だとさまざまな素材を使うことができます。素材を自由に選べる立体物は、自分の創作に合っていたのだと思います」

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〈SIRI SIRI〉がブランドとしてデビューする前は、さまざまな素材で試作を重ねていた。そんな試行錯誤を経て、いまでは厳選した素材の可能性を追求し続けている。

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「〈SIRI SIRI〉では、ガラスと籐が代表的な素材ですが、現在ではアクリルや七宝、パールや貝なども使っています。子供の頃の思い出もあるし、さまざまな素材を試したいのですが、広がりすぎると方向性を見失ってしまうので、厳選しています。これまでにもいくつもの素材でジュエリーを作ってきましたが、特にガラスのデザインは得意だと思っています。透明なので立体の形がわかりやすく、アウトラインを描きやすいです」

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ブランドをスタートする以前の、岡本さん自身による習作。

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また、〈SIRI SIRI〉のジュエリーには和のエッセンスを感じるという声、和装とも相性がいいという声がよく聞かれる。しかし、岡本さんはそれを意識して制作してきたわけではなく、素材も必ずしも日本で長く使われてきたものばかりではない。例えば籐細工は東南アジアでよく見られ、日本では竹細工の歴史が長いなど。また、ガラスは、伝統的なカット技術の一つとして有名な江戸切子を、〈SIRI SIRI〉では工業用ガラスに施しており、素材の新しい使い方をしている。それでも、どこか和の香りを感じさせる理由はどこにあるのか。岡本さんはどのように捉えているのだろうか。

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「〈SIRI SIRI〉に和を感じてくださるとするなら、デザイナーである私と、作り手である職人が同じ地域に暮らし、近いバックグラウンドを持っていることが影響しているのではないでしょうか。東京の職人さんと一緒に作ることが多いのですが、見てきた景色が近いと、美しいと思う部分が合致しやすいのだと思います。職人の方々と美意識を共有できるかどうかは、私がジュエリー作りでとても大切にしている点です。また、日本ではアシンメトリーの構図の方がかえって安定して見えるという美の捉え方があって、例えば浮世絵なども独特の比率で空白がもうけられていたり、そういう昔から親しまれた感覚が、私のデザインにも自然と反映されているのだと思います」

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〈SIRI SIRI〉のスタート時、岡本さん自身で編み、ラタンのバングルとブレスレットを試作した。

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ガラスのバングルとピアスもブランド最初期からの製品。

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東京からスイスへ

新天地でも変わらぬ興味

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東京を拠点としてきた岡本さんに、〈SIRI SIRI〉が10周年を迎えた頃から、スイスへと住まいを移す転機が訪れた。ものづくりの原点をもう一度学び直すため留学を決意。ヨーロッパのいくつかの国のアートスクールを受験し、合格したのがスイスの大学院だった。そしてその後、スイスで結婚をしたこともあり、引き寄せられるように移住へとつながった。デザインを手がける岡本さんと職人の拠点が近いことを望むならば、スイスを拠点にすると東京の職人との間に乖離が生まれるのではないだろうか。

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「少しはあると思います。今は数ヶ月おきに行ったり来たりしていますが、たった数ヶ月の滞在でも自分自身に変化があります。スイスで見る景色や時間の流れ、暮らし全体のリズムが、東京のそれとは異なるため、私のデザインにもその影響が出るような気がします。だからこそ、最終的にジュエリーを作り上げるタイミングは、必ず私が東京に滞在しているときに行います。作品には、作り手同士の感覚的なジャッジがあらわれてくると思います」

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スイスに拠点を移した今、その土地にまつわる人と手を取り合いたいという気持ちは変わらないという。

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「縁あってスイスに住むことになったので、自分の創作にすごく合っている場所だと感じています。私が尊敬する建築家のル・コルビュジエや、バウハウスの校長を務めたハンネス・マイヤーもスイス出身ですし、デザインリテラシーを受け止めやすいんです。私にとっては、デザインを白紙の状態から考えられる環境だと感じていて、それが心地いい。2025年のホリデージュエリーでは、タラスピットというスイスでしか採れない天然石を使ったジュエリーを発売しました。スイスの自宅から7時間かけて山間部の石の工房を訪ねたんです。これからは、現地の職人の方ともジュエリーを作って行きたいと考えていますし、スイスに住んで6年、私のホームタウンになりつつあるのかもしれません」

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presented by

花を纏った、粘土のスキンケア

〈Pedal & Senza(ペダル アンド センツァ)〉は、ミネラル成分である稀少な粘土「モンモリロナイト」を主成分として、香り豊かな植物を組み合わせた天然由来のコスメです。自然の移ろいに寄り添いながら、巡りゆく日常に美しいうるおいをもたらします。