a seeker of connecting books and society 本と社会をつなぐ探究者|三宅香帆
三宅香帆(みやけ・かほ)
<right>
<title>
読書とともにある
新たな世界との邂逅
</title>
大学・大学院で文学を学び、これまで本や読書をテーマに数々の書籍を上梓してきた三宅さん。現在も月に20冊ほどの本を読み、自身を「活字中毒」と語る彼女は、幼少期から多くの時間を読書に費やしてきた。
<br>
「時間があると、学校や近所の図書館、書店、古本屋へ行って、面白そうな作品を地道に探していました。その中で出会った恩田陸さんや氷室冴子さんの作品、児童文学の『クローディアの秘密』は、自分にとって『こういうものが面白いんだ』『これがカッコいいんだ』という価値観を教えてくれました。逆に『こういうことはしたくない』という基準もできたような気がします。今でもたまに読み返すと、自分の原点だなと感じますね」


<caption>
恩田陸さんの作品は、三宅さんにとっての原点のひとつ。過去には自身のYouTubeチャンネルで『【天才作家】恩田陸ベストアルバムをつくろう!!【独断と偏見】』という解説動画も公開している。
</caption>
「地元では本の話をする人が周りにあまりいなかった」と学生時代を振り返る三宅さん。そんな中、インターネットで出会った読書ブログが、自分の進む道を示してくれるひとつの道標になった。
<br>
「小学生のころから、人の読書ブログを読むのが好きだったんです。特に、検索して偶然見つけた、東京に住む6歳年上のお姉さんのブログは、『こういうジャンルがあるんだ』『こんな作家さんがいるんだ』と知るきっかけになりました。そうやってインターネットで出会ったものに助けられてきたので、今度は自分も誰かにとってそういう存在になれたらいいなと思っています」
<br>
大学と大学院では文学を学び、それまでよりもさらに深く本の世界へと潜っていく。その中で批評や評論という分野に出会った。
<br>
「例えば映画を観たとき、人と違う感想を持つと『こういう見方をしちゃいけないのかな』と感じることがあると思うんです。でも、文芸評論家の斎藤美奈子さんや批評家の東浩紀さん、宇野常寛さんの本を読んだり、大学院で批評や評論というものを学ぶことで、『世界の見方ってひとつじゃないんだな』『感想はいろいろあっていいんだ』と思えるようになりました。むしろ、みんなと違う意見を持ったり、見方をひっくり返せるほうがカッコいいと感じるようになったんです」

</right>
<left>
<title>
面白い本を読み続けたいから
読書人口をもっと増やしたい
</title>
文芸評論家と聞くと、どこかとっつきにくい印象もある。しかし、三宅さんの文章は、「本を読むのは大変」「ハードルが高い」と感じる人の気持ちをひとつひとつ掬い上げ、言語化してくれる。そのおかげで、読書がぐっと身近なものだと感じられるのだ。こうして優しく丁寧に言葉にできるのは、三宅さん自身も読者のひとりであることが土台にあるからだろう。
<br>
「本を読む人が増えないと、面白い作品が増えないなと感じています。だから、読書人口が減るのは困ります(笑)。それに、自分が面白いと思った本は、ほかの人もそう思うはず。面白いものは人生を豊かにしてくれるから、その作品を知る人が増えるのは、世界にとってもいいことだと思うんです」
<br>
時には友人と話しているかのように、またあるときは物語の登場人物のように語り口を変える。それもまた、三宅さんの文章の魅力だ。
<br>
「私の中では、『本の紹介を読みたい人は誰もいないだろう』というところがスタート地点なんです。だから、どうしたらみんなが本を読みたくなるか、飽きない文章にするにはどうすればいいかを常に考えています。評論って人気のジャンルではないですし、本の紹介は単調になりがち。なので、まずは読んでもらうことを意識して工夫することが、文体や伝え方の変化に繋がっているんだと思います」
<br>


<caption>
書店内の至るところに、三宅さんの書籍コーナーが設けられている。読書や物語の読み方をテーマにした作品はもちろん、文章術や自分の気持ちを言語化する方法を扱った作品も人気を集めている。
</caption>
</left>
<right>
<title>
本が形作ってくれた
自分だけの視点
</title>
地元にいたころと変わらず、今もよく書店に足を運ぶという三宅さん。地方や海外を訪れるときも、その土地の本屋をのぞくのが習慣だという。書店に行くのは「仕入れみたいな感覚」だと話し、棚に並ぶ本から見えてくるものが、自身の書くものにも影響していく。
<br>
「少し前までは、時間の使い方をテーマにした本がよく売れていました。でも今は、休養や体力に関する本が流行っています。AIで効率が上がっても仕事は減らず、どれだけ体力があればいいのかと、多くの人が疲れて休みたいモードなのかなと思うんです。そうやって、書店に通って棚を見ていると、流行には変化があるのがわかってくる。売れている本には時代が映し出されているし、その土地で売れている本を見れば、場所への理解も深まります」


<caption>
今回、撮影を行ったのは、ジュンク堂書店 池袋本店。東京に住んでいた頃、週に一度は通っていたという、三宅さんにとって思い入れのある書店のひとつだ。
</caption>
流行に目を配り、あらゆる情報に触れながらも、自分の視点は揺らがない。それは、幼少期から読み重ねてきた本のひとつひとつが、三宅さんの軸を育ててきたからだ。
<br>
「ちょっと昔の本を読むと、今と全然違うことが書かれているので、売れているビジネス書は『今はこういうものが流行っているんだな』という目線で見ています。そして、なぜこれが流行っているのかを考える。自分がいいと思って取り入れるものと、みんなが関心を持って追いかけるものは区別する。情報として、その線引きを意識しておくことを大事にしていますね。SNSで流れてくる言葉も、『みんなは今こう考えているんだな』と、自分に向けられた言葉として受け取らない。どんなことも受け止めすぎると疲れてしまうので、みんなが自分を守る方法を見つけられたらいいなと思います」
<br>
数多くのコンテンツが生み出され、誰もが自分の意見を発信できる一方で、“正解”への最短ルートを求めがちな今の時代。三宅さんは、そうした情報の波に飲まれることなく、本や読書を通して、自分で好きなものを見つけるヒントを示している。
<br>
「今はSNSでもAIでも『これが最適な答えです』『あなたにおすすめのものです』と勝手に“正解”を出してくれることが多く、それが当たり前だと思っている人もいると思います。そんなインターネットの世界に慣れすぎて、現実世界ではなぜおすすめが出てこないのかと感じる人が増えているのかもしれません。そう考えると、本はタイトルや表紙だけでは何が書かれているかわからないものばかり。だからこそ、本をおすすめする人間が今の時代には必要だと思うんです」
</right>
