the aesthetics of cool through vintage fashion 古着が教えてくれた、かっこよく生きる大人の美学|eri
eri(えり)
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表現手段として
選んだファッション
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eriさんは、古着店〈DEPT〉を営む両親のもとに育ち、雑誌『Olive』で連載を持ったり、自身のブランド〈mother〉を立ち上げたりと、若い時からファッション界のアイコニックな存在だ。彼女の原点である子供時代を振り返り、ファッションの世界へと飛び込んだ当時の想いから語ってもらった。
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「子供の頃は、絵を描くことや写真を撮ることに興味がありました。デッサンから始まり絵画の勉強をしていたのですが、もしかすると無意識のうちに、ファッションに携わる両親とは違うアイデンティティを模索しようとしていたのかもしれません。でも、油絵を専攻して制作を続けるうち、時間をかけて描いたものがキャンバスの上に留まっていることに、だんだんつまらなさを感じるようになって。作ったものが誰かの役に立ったり、生活の中に組み込まれたりといった、平面の枠を超えた広がりが欲しいと思うようになりました」

美術の世界で表現の可能性を模索していたeriさん。しかしある日、突如大きな進路変更をすることに。
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「ある朝、いつものように玄関でブーツの靴紐を結んでいたら、『私がやりたいのはファッションかもしれない』って急に思ったんです。自分の表現ツールが、絵からファッションへ変わった、そんなイメージ。だから、最初はヴィンテージの生地やパーツで一点ものを作っていたので、感覚としてはキャンバスに絵を描くことにすごく近かったんです。それから〈mother〉をスタートして、工場を通した既製服になった途端、がらりとゲームチェンジが起きて。気づけばファッション産業のレールの上を走っていました」
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ファッション業界でのキャリアが始まると同時に、eriさんは早い段階から、業界のシステムや慣行に違和感を抱くようになった。
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「例えば、コレクションが年に2回あって、その期間内に必ず新作を発表して、展示会を開かなければいけない。オリジナルの生地を作るには、最低発注量があるし、仮にワンピースをメインに作りたいと思っても、営業からアイテムと型数をリクエストされる。自分が本当に作りたいものや数から徐々に逸脱していきました。『この矛盾をなんとかしたいけど、どうしたらいいんだろう』とずっと悩んでいました。でも、当時はまだ若かったからこそ、『これが業界の当たり前なんだから、飲み込まないといけない』と言い聞かせていたところもあり、疲弊して自分の道を見失いそうになることもありました」

小さな違和感が積み重なりながらも、歩みを止めることはできず走り続けていたeriさん。その一方で、自分なりの方法で、既存のシステムへ抗うことも試みた。
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「モノを作って売るとなると、ある程度の量を見込んで生産し、自分たちで在庫を抱えることになります。そうすると、今度は在庫整理のためにも『売り切ること』が求められる。あんなに一生懸命作ったものが、半年経過したという理由だけで安く売られてしまう。それにもすごく違和感がありました。だから、当時は珍しかったのですが、お客様向けの『受注生産』を始めました。そうすることで、私たちも無駄を出さずに、本当に欲しいと思ってくださるお客様にきちんと届けられるように努力しました」
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はじめは驚かれたというが、だんだん定着していったという。しかし、アパレル産業の「無駄」は、服の売り方だけでなくバックヤードの仕組みそのものにも潜んでいた。
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「工場からの納品システムにも、ずっと頭を悩ませていました。通常、出来上がった服は、1着ずつプラスチックのハンガーに吊るされて、ビニールカバーがかけられて運ばれます。店頭に出す時にカバーは取って捨てるし、ハンガーも掛け替える。どのブランドも基本的に破棄するしかない現状がありました。ただ、納品システムはオートメーション化されているので、私たちだけで『やめてください』と言ったところで、現場を困らせてしまう。それでもできることはやってみたくて、ハンガーを工場へ戻してまた使ってもらったり、再利用可能なカバーを作って、『これを使ってくださいと』お願いしたり。お店ではショッパーを廃止したり。とにかく、どうにかしてゴミを減らそうと工夫しました」
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社会課題を見つめ
アクティビズムの道へ
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そして、転機が訪れる。ブランドをスタートしてから10年が経った2014年。コレクションの発表を終了することに。スローペースでオリジナルアイテムを作りつつ、古着の買い付けを本格的にスタートした。
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「自分なりに抗ったり工夫したりはしたけど、疑問は膨らむ一方で。ある時、『もうダメだ』と思って、コレクションの発表をやめました。あまりに早いファッションのサイクルやシステムに疑問を抱いていたからこそ、古着というある種の自分の原点を見つめ直すきっかけになりました」
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〈DEPT〉の店内には、古着やオリジナル商品、世界各国で買い付けたアイテムのほか、eriさん自身が愛用するコスメなども並んでいる。
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物心つく前から古着に親しんできたeriさんにとって、その良さは一体どのようなものなのだろうか。
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「自分で価値を決められるところですね。トレンドとか、デザイナーの名前といった『お墨付き』がない状態で、自分の目だけで選べることがすごくいい。ファッションって、本来はそうやって自分で掴み取っていくものだと思うんです。世間的にどう評価されているかに関わらず、自分が『これが良い』と胸を張って言えることは、とても大切だなと思います」
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しかし、いざ古着の現場に目を向けると、そこにはeriさんが知っていた買い付けの状況とは、あまりにも大きな変化が起きていた。
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「幸いにも、子供の頃から良い古着を着せてもらっていて、何十年も前の服も当たり前にありました。それが、買い付けの現場に行くと、去年売られていた服が、すでに古着として大量に流れ込んでいたんです。人と服との付き合い方が大きく変化していることに、恐怖にも似た危機感を覚えました。このことは、興味関心が気候変動や環境問題へと向く大きなきっかけのひとつになったと思います」
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これを機にeriさんは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の『1.5℃特別報告書』をはじめ、関連する専門書や各種レポートを次々と精読し、問題への知見を深めていった。
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「地球がこれほど危機的な状況にあるにも関わらず、私を含めて世間の認知度が驚くほど低いことや、国の政策も遅々として進んでいないことも、遅ればせながら気がつきました。そして、自分がずっと携わってきたファッション産業も、気候変動を加速させる大きな一因であると改めて理解したとき、これまでの点と点がすべて繋がっていく感覚がしました」
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さらに、違和感の矛先はシステムそのものの無駄に留まらず、その歪みがもたらす世界的な不均衡、そして次世代への不公正へと向かっていく。
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「住んでいる地域によっては、CO2をほとんど排出していないのに、環境破壊の深刻な影響を受けていたり、マイノリティや高齢者、女性や子供達が真っ先に犠牲になる。そのような不公正を正していこうという『気候正義(クライメート・ジャスティス)』という概念があります。私はこれまで自由に自分を表現できたし、好きなように行動できた。けれど、今の若者や子供たちは、この先地球がどうなるか分からないというあまりに不安定な状況の中で、未来の選択を迫られている。そういう不公平な世界を作り出した責任の一端は、私にもある。だから、これからは、自分が加担してきたことの埋め合わせという意味も含めて活動していこうと思ったんです。ただ、私は人間が何かを生み出すことは、決してやめるべきではないと思っています。大切なのは、どうやって、どういうマインドでモノを作っていくか。今まさに、その姿勢が見つめ直されるべきだと考えるようになったんです」
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暮らしの中で政治を意識し、自分の意思やスタンスを表明するツールとして制作された「REBEL FOR THE FUTURE」のパッチたち。
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気候変動について学びを深めるうちに、社会システムや政治との切っても切れないつながりを知ることとなる。そこから市民運動やNGO・NPOの運営者たちとの関わりが増え、かつてファッションブランドを切り盛りしていた頃とは、また違う新たな扉が開かれていく。
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「自然な流れで、私も市民運動に関わっていくことになりました。市民が声をあげる機会や場所を作りたいと思って、2022年には『WE WANT OUR FUTURE』という団体を仲間たちとスタートしました。気候変動や人権問題、反戦、あるいは憲法9条を守ることなど、メンバーといろいろなイシューについて話し合いながら、デモやマーチ、勉強会などを企画・運営しています」
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草の根のアクティビズムを展開する中で、eriさんはある強固な盲点に直面することになる。
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「戦争ってものすごくCO2を排出するんですよ。いま、地球の平均気温の上昇を、産業革命前と比べてプラス1.5度未満に抑えようと世界中で必死に頑張っていますよね。でも、その計算の中に軍事活動のデータは含まれていないんです。軍備に関することは機密事項にあたるため、排出量の公開義務がなく、実態が不透明のまま。だから、地球上で戦争が起きている限り、私たちの見えないところで想定以上のCO2が排出され、気温上昇も加速しているのが現実なんです」
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行動力の原点は
周りの大人たちの価値観
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そうした地球や自然に対するピュアな視点と並び、eriさんの行動の根底を支えているのが、幼少期に身を置いた環境がもたらした美学だ。
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「影響が大きかったのは、ものづくりに携わる大人に囲まれて育ったことかもしれません。様々なことの判断基準として、それが素敵なことか、革新的であるか、かっこいいことか、というものがあったように思います。今の私にとって、ゴミがいっぱい出るとか、無駄が多いとか、そういうことは『かっこわるいこと』だと感じています。だからこそ今、自分の権利や自由のために、誰かの未来を奪ってしまう生き方を選びたくない。自分が生きていく上でする選択が、誰かの選択の妨げになってほしくない。そういう思いが、私の原動力になっているんだと思います」
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幼い頃に両親からもらった、巻き貝の小さな容れ物。ずっと宝箱の中で大切に保管していたが、最近になってチェーンを通し、ネックレスへと仕立て直した。繊細な貝が割れてしまわないよう、あえて短めにして身に着けている。
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ジュエリー好きな母がから少しずつ譲り受けてきた指輪たち。こうして母から引き継いでいるから、自分で新しくジュエリーを購入することはめったにないという。
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2026年の春には、これまでeriさんが暮らしの中で実践してきた経験をまとめた一冊『暮らしの中の小さな革命』が出版された。自身がモノを選ぶとき、「本当に欲しいか、使うか」「誰がどう作っているか」「もっと環境に配慮した素材のものは存在しないか」など、深く思考を巡らせて手に入れたモノは、生活を豊かにし、自分の選択への自己肯定感まで高めてくれるという。「買い物は投票」という言葉がある通り、日々のモノ選びこそ、誰もが今日から取り組める社会課題へのアプローチ。だからこそ、いま一度その選択を真剣に考えるべきだと、eriさんは語る。
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「本来、人が何かを選ぶとき、それを手放す前提で購入してはいなかったはず。服でも日用品でも、昔は家庭やその地域で手作りしていた時代がありましたし、買うとなったら『長く使うものだから』と思ってお金を払っていました。今、古着店やフリマアプリ、回収ボックスなど、ゴミとして廃棄せずに手放せる環境が整ってきたことは素晴らしいことです。けれどその一方で、あとで回収に回せばいいのだからと、安易に手放すことを許容してしまうのではないかという懸念も生まれています。これからは、モノの減らし方や循環のシステムだけでなく、そもそも最初の選び方自体が、サービスの拡大と同時に語られるべきなんじゃないかと考えています。自分の自由な選択が、世界のどこかにいる誰かの自由を狭めている可能性がある。そのことに気づいたら、日々の取捨選択にしっかりと責任を持ちたいですよね。最初の一歩は私一人かもしれない。けれど、それが100人、1000人、10万人と実践していったら、社会は確実に変わると思っています」
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