montmorillonite museum vol.01「モンモリロナイトのある広い部屋」|坂巻弓華
photo masaki ogawa
text hiroko ishiwata
2024.08.30
坂巻弓華(さかまき・ゆか)
〈column on montmorillonite〉
モンモリロナイトと雪の共通点
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シュールリアリズムに
着想を得た
引き込まれる白の世界
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どこまでも続く白い空間で物思いにふける女性。地平線の先には雪化粧した山々が連なる。彼女の手元には“モンモリロナイト”の原石が佇む。ポートレートシリーズが人気を博している画家・坂巻弓華が描き下ろしてくれた作品だ。
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「今回の作品制作依頼のお話を伺ってモンモリロナイトの原石を拝見したときに、理科の授業のような印象を受けたんです。いただいた資料にも目を通したのですが、理数系が苦手だったもので……ここは見た目から受け取った感覚を大切にしようと決めました。自宅のテーブルに原石を置き、じっと眺めていたら、その状況がシュールだなと感じ始めたんです。見慣れない鉱物が私の自宅のテーブルにある。それがちょっと非日常的。難しいことは置いておいて、そのままを描いてみることにしました。リビングテーブルにある原石とその姿にシュールリアリズムから受けた刺激を組み合わせたらどうだろう、と思ったんです。白い世界は原石の色ともリンクしています」
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自宅兼アトリエには、坂巻さんの好きな猫と熊の置物が心地よく並ぶ。モンモリロナイトの様子を伺うような猫のオブジェ。
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構想を練り、作業に取り掛かる。制作を進めていくうちにあることに気がつく。
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「背景に雪山を描いているのですが、テーブルの上にあるモンモリロナイトまで雪山に見えてしまわないかと心配になりました。そう見えないように気をつけようと思っていたのに、結果的に雪山のようになってしまいました(笑)。モンモリロナイトの存在を知らずに見た方は、北極の雪を取ってきて手元に置いている女性の絵に見えるかもしれません。もともと作品に対する受け取り方はそれぞれであってほしいと考えているので、これはこれで意味がわからなくていいかなと、最後まで仕上げました」
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「嘘をついてしまいそうになるからインタビューは苦手なんです」と笑う坂巻さん。丁寧に描き込まれてほのかに艶めく唇やまばらに染まる赤みが少女性を放つ頬。作品のなかの一人ひとりと向き合うような仕上がりにも、その誠実さが現れているように感じた。
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ポートレートシリーズのなかでもここまで白で統一された作品は珍しいのではないか。そう伝えると、坂巻さんの画家としてのこだわりに触れることができた。
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「ずっと同じことをするのは嫌だなという意識はあります。個展の際も必ずひとつは新しくて良い作品を出したいと思っていて、小さなチャレンジを続けています。そのことを自分から発信することはありませんが、少しでも気づいてもらえると“この表現を続けていいんだ”とほっとしながら喜びを覚えます。いくらでもダメな絵は描けるんです。形が美しくないところでやめることも簡単。だからいいところまで引き上げられるよう頑張っています。ずっと描き続けていると着地点がわからなくなるので、時間を置いて引いて見るようにしています。部屋に立てかけて、ご飯を食べながらふと視界に入ると修正点に気づいたり、一晩寝て目覚めてから眺めるとパースがおかしいと感じてくる。ここから戻るのはしんどいな、と感じても描き直すんです」
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作品で伝えたいことは
ずっと変わらない
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正面から向き合って生まれる作品たちには、坂巻さんなりのメッセージを込めているのだろうか。
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「深い哲学ではなく、誰しもが感じる突発的な感情を込めています。一つひとつの作品に別々の気持ちがあるわけではなくて、メッセージとしては2、3個。絵も漫画も文章も、ずっと伝えたいことは同じなんです。その表現方法がコミカルなのか、真剣なのか、美術に託しているのか。それを発表することで価値を作ることも違和感がありますし、受け手の方が自由に感じ取ってくださればいいかなと思っています」
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アトリエには、今回の作品でも使用したアクリル絵の具が並ぶ。計8〜9色で表現した世界は、モンモリロナイト、衣装、空間のそれぞれに白の個性が出るよう心がけたという。「特に空間は静けさが出るように意識しました」
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個性的なタイトルも坂巻さんの作品の魅力。今回の絵にタイトルをつけてほしいとお願いしたところ、『モンモリロナイトのある広い部屋』と名付けてくれた。
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「タイトルは描いている途中ですっと浮かびました。いつも制作中に思いつくことが多いんです。完成してからだと後付けっぽく偽ってしまいそうになるので。たまに無題にしちゃおうかなと考えてしまうのですが、タイトルがあったほうがみなさんに喜んでいただけるので、頑張ってつけています」
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今後も個展や作品集の出版が続く坂巻さん。挑戦してみたいことを尋ねた。
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「実は少しずつ絵を大きくしているんです。F6号(410×318mm)からスタートして、F30号(910×727mm)までたどり着きました。アートフェアに出展した際に、みなさんの作品がとても大きくて、やはりアートはある程度大きさが必要なのかなと感じたんです。いきなり大きくはできないので、少しずつ階段を登っていけたらなと。そう言いながら、大きければいいとも思わないので、気づいたら小さいサイズに帰ってきているかもしれません(笑)」
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