montmorillonite museum vol.09 「磊淼(らいびょう)の跡」|大竹笙子
photo shoko otake
text & edit sakiko fukuhara
2026.06.30
大竹笙子(おおたけ・しょうこ)
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目にした“情景”を
どんどん重ねる
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ロンドン芸術大学でテキスタイルを学び、2020年より木版画の制作をスタートしたアーティスト、大竹笙子さん。複数の版をコラージュの感覚で重ね合わせることで、版画の中にはさまざまなモチーフが愉しく共存する。
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「幼い頃から毎年必ず、ゴム版で年賀状を刷ってきました。20年以上に渡る年賀状制作を経て、版画欲がどんどん湧いてきて。加えて『ZINEを作りたい!』というZINE欲も重なり、本格的に木版画を始めることになりました」
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当時制作したZINEは、『DUMBBELL KUMBBELL』というシリーズとして、現在も継続して発表している。版画のモチーフとなるのは、大竹さん自身が実際に目にしたもの。創作意欲を掻き立てる情景を写真に収め、日々ストックしているという。
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「実際に目にしたことがないものは、一つもないと言いますか。たとえば『版響#011』という作品は、街の看板に描かれていた天使がモチーフになっています。ただ、そのままトレースするのではなく、一度スケッチブックに模写して、それを版に。実際は右向きに描かれていた天使ですが、版画の上では反転しています」

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2022年に制作した版画作品『版響#011』。ここに登場するフラワー柄のモチーフは、今回の作品『磊淼の跡』にも採用されている。「ご自由にどうぞ」と書かれたボックスから見つけた、アクリル板の型抜きを再利用したもの。
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好奇心と共に拡がる
版画の解釈
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複数の版を何層にも組み合わせる。大竹さんの「重ねる」欲は、紙の上に留まらず、さまざまな素材へと侵食していく。
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「最近は布に刷ることが楽しくて。昨年制作した『2EYES1BRAINⅦ』は、いろんなタイプの布に版を刷り、ミシンで縫い合わせ仕立てた作品。インクが均一にのらないのも面白いですし、いろんな角度から“重ねる”という作業を楽しんでいます」

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2025年の個展『4 EYES 2 BRAINS』で展示された作品『2EYES1BRAINⅦ』。布自体が持つ「柄」と、刷られたモチーフとの重なりも面白い。
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昨年は、大竹笙子さんが彫った木版に、姉の彩子さんがペイントした、一点ものの作品も発表。版木自体を作品化するという経験を経て、現在は一人で彫り、彩色し、異なる素材を流し込むという新しい手法にも挑戦している。
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「『版木の上でコラージュするとどうなるか?』という問いから生まれた作品です。彫った部分にラメの樹脂を流し込んでみたり、古い本の切り抜きをシールのように貼ってみたり。とにかく制約をなくして、自由に楽しんでいます」

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彫るモチーフは統一しながら、色や背景に変化を持たせる。どの工程においても自身の直感を最優先し、いわば直感力を鍛えるような意識で制作している。
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幼少期に戻った感覚で
新しいテクスチャーを探る
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大竹さんが現在取り組む「彫る」と「刷る」一体化された作品に、モンモリロナイトを用いてみたらどうなるか。そんなアイデアの応用から、今回の作品「磊淼の跡」は生まれた。石がごろごろしている様を表す「磊」と、水が広がる様子を表す「淼」。この2つの漢字を組み合わせ、石と水の視覚的なコラージュ感を、タイトルにおいても表現したという。
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「まず、粉末状のモンモリロナイトに水を加えて練ってみました。はじめは粉末と水が完全に分離しているのですが、練れば練るほどペースト状に馴染んでいく。そんな様子を眺めていたら、“ねるねるねるね”っていうお菓子を思い出して。そこから『子供時代』をテーマに、作品を構成してみようと思いつきました」

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粉末状のモンモリロナイト(左上)に水を加えて練っていくと、石のようでもあり、土のようでもあるグレイッシュなトーンへと変化する。
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ファンシーな色に、キラキラなトッピング。「ねるねるねるね」から着想を得て、モンモリロナイトにパープルの顔料をミックスし、独自の新しい色を作り出す。
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素材と色の「形跡」を残す
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「なにかしらの形跡が、私にとっての版画の概念」と話す大竹さん。今回は、版木を「彫る」ことから始めるのではなく、テクスチャーの異なる画材を用いて、色を重ねていくことから作品作りがスタートした。
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「はじめに茶色の溶剤を上部一面に塗り、そこから楕円の形だけを抜くように、水で溶かしたモンモリロナイトを塗っていきました。モンモリロナイト単色のトーンもすごく綺麗で好きなんです。『跡がつくものは版とみなす』という感覚があるのですが、今回は凹として彫るのではなく、凸として溶剤を重ねることで、一枚の作品を完成させました。紙に刷ることと、刷らないこと。アウトプットは異なりますが、そのアプローチは版画と同じです」

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茶色、紫、ラメ、赤……。透明感が高く、つややかな質感が特徴の溶剤系絵の具(金属やプラスチックへの着色に適したもの)を用いて、テクスチャーに変化をもたせる。中央上部に引かれた薄ピンクと下部の赤い横線には、異なる色の顔料を混ぜたモンモリロナイトを使用。
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実験と発見をコラージュする
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「普段は白黒や茶色など、わりとストイックな色を使うことが多いのですが、今回は何にもとらわれず、そのとき惹かれた色をピックアップしました。経年変化したかのようにくすんだ色と、パキッとした鮮やかな色の組み合わせも良いですよね」
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幼少期に戻ったような自由さで、自身の感覚とリズムを頼りに色とテクスチャーを重ねていく。いろいろな試行錯誤を繰り返す中で見つけたもう一つのアイデアが、 “ミルクセーキ”に見立てたモンモリロナイトの表現だ。
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「いろんな実験を繰り返してみたのですが、ある日タッパーにモンモリロナイトの石を一個入れ、水でひたひたに浸してみたんです。そのまま1日寝かせてみたら、見事な粘土状態に!『これは面白い』と思ってすぐに型取りをし、T字や丸、花のモチーフを作品にトッピングしてみました」

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モンモリロナイトの粘土を用いて試作中の一場面。形成した直後はクッキーのように立体的だが、水分が蒸発するにつれてどんどん薄く、平面的へと変化する。
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タッパーに入った素材が、モンモリロナイトの粘土。周いには、今回用いた型抜きや道具がずらりと並ぶ。左上の小皿にのっているのは、「マスキングテープの上で乾いたモンモリロナイトの破片。よく見ないとわからないくらいさりがないのですが、実は今回の作品にも潜んでいますよ」
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練り、塗り、重ねる工程を経て、スタンプを押したり、サークル状の彫りを施して仕上げていく。素材の特性と真摯に向き合いながら試行錯誤を重ね、異なるエレメントをコラージュする。大竹さんを魅了してやまないのは、“目にしたもの”のすべてが素材になる、実験的で自由なプロセスだ。
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「私にとって、データ上ではなく、実物を使ってコラージュすることが何より大事。データ上であれば、モチーフのサイズを簡単に変えられるじゃないですか。でも、そのサイズでしかない実物を、どう組み合わせるかという“不自由さ”こそがすごく楽しいんです」
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〈column on montmorillonite〉
石から粉、そしてクリームへ。
七変化するモンモリロナイト
