montmorillonite museum vol.02「インスタント・クロマトグラフィー」|石塚元太良
montmorillonite museum vol.02「インスタント・クロマトグラフィー」|石塚元太良

montmorillonite museum vol.02「インスタント・クロマトグラフィー」|石塚元太良

art work & photo gentaro ishizuka

2024.10.30

〈Pedal & Senza〉の主原料である“モンモリロナイト”を、アーティストの感性・視点を通して作品へと昇華させ、その新たな魅力と可能性に迫る連載「montmorillonite museum」。今回は写真家・石塚元太良による、“クロマトグラフィー”を用いて描かれた色彩のアート。それは、彼がいつも制作している「写真」という媒体を、科学的な視点で捉え直すことで生み出された。

石塚元太良(いしづか・げんたろう)

1977年、東京都生まれ。2004年に日本写真家協会賞新人賞を受賞し、その後2011年文化庁在外芸術家派遣員に選ばれる。初期の作品では、ドキュメンタリーとアートを横断するような手法を用い、その集大成ともいえる写真集『PIPELINE ICELAND/ALASKA』(講談社刊)で2014年度東川写真新人作家賞を受賞。また、2016年にSteidl Book Award Japanでグランプリを受賞し、写真集『GOLD RUSH ALASKA』がドイツのSteidl社から出版される予定。2019年には、ポーラ美術館で開催された「シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート」展で、セザンヌやマグリットなどの近代絵画と比較するように配置されたインスタレーションで話題を呼んだ。2022年国立新美術館で行われた「Domani:明日展」でメインビジュアルを担当。近年は、暗室で露光した印画紙を用いた立体作品や、多層に印画紙を編み込んだモザイク状の作品など、写真が平易な情報のみに終始してしまうSNS時代に写真表現の空間性の再解釈を試みている。2025年奈良市立写真美術館にて個展が開催予定。

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〈column on montmorillonite〉
モンモリロナイトと色の関係性
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モンモリロナイトは、
白、緑、赤、ピンク、黄色など
さまざまな色をしています。
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モンモリロナイトを分解すると、
結晶の中にアルミニウムが存在します。
しかし、自然界のさまざまな要因により、
そのアルミニウムが本来あるべき場所に
鉄が置き換わることがあります。
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その鉄の酸化状態によって、
緑になったり、赤になったり、
場合によっては、中間のピンクになったりと、
さまざまな色が生まれるのです。
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—— 「クロマトグラフィー」とは、なんですか?

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クロマトグラフィーは物質を分解する技法のこと。物質の大きさ、吸着力、疎水性(水に対する親和性が低く水に溶けにくい、あるいは水と混じりにくい性質のこと)、電荷などの違いを用いて、気体から固体、液体などの移動相の状態ときに、成分を分解する化学的な実験方法のひとつです。 

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もともとは、20世紀初頭にロシアの植物学者ミハイル・ツヴェットにより発明されました。ギリシャ語で、“色を分解する”という意味の言葉から、「クロマトグラフィー」という名前がつけられたそうです。

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水などの簡単なものを使って行う実験から、「ガスクロマトグラフィー」、「超臨界流体クロマトグラフィー」など大掛かりな設備が必要な実験まであります。

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今回の作品制作では、まずモンモリロナイトを溶かした水をバットに用意する。そこに、数種類のカラーペンのインクを垂らしたろ紙を浸すと、インクが水に溶け出し、色が徐々に分解されていく。すると、分解された色彩が繊細に混ざり合い、ひとつのイメージが浮かび上がってくる。このときモンモリロナイトは、触媒としての役割を果たすとか。

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—— この作品を作ることにした理由は?

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現在、自身でカラーフィルムを製作するプロジェクトを行っています。その過程で、市販のカラーフィルムの成分を、クロマトグラフィーを用いて分解解析することが可能かどうか考えていました。後日、その成分についての情報を工学論文から発見したので、実験自体は棚上げしてしまいましたが、頭の片隅にクロマトグラフィーへの興味が残っていました。

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今回の制作依頼を受け、モンモリロナイトについて調べていくうちに、クロマトグラフィーの触媒(化学反応の速度をはやめる作用をもち、反応後もそれ自身は変化しない物質)としても使用されていることを知りました。そこで、この制作にぴったりなのではと思い、身近にあるカラーペンの色の分解に挑戦してみました。

 

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実験に使用したカラーペン。同じ色でも、メーカーによって色の分かれ方が異なる。さまざまな種類のペンを使うことで、偶発的な作品に仕上がっている。

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—— ご自身の写真作品との関連性はありますか?

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写真とは、まさに200年前に発明された科学的なインスピレーションの産物です。ものを分解していく過程で抽出され、多くの実験の中から掛け合わされた物質たちが、画像そのものを瞬間的に写しとることに成功した魔術のような所作なのです。

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ものを科学的に分解していく。そんな「アナログ」なしてんが、ものの美しさを昇華させ、際立たせることもあるのだと改めて思いました。

 

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世界中を旅して撮影する石塚さんのアトリエには、ナミビアやニュージーランドなど、各国から持ち帰った鉱物が置かれている。モンモリロナイトも鉱物の一種だが、ここにはもっと硬くてカラフルな石が多い。

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