montmorillonite museum vol.10「Singles」|鈴木大晴
photo shiori ikeno
text & edit sakiko fukuhara
2026.08.30
鈴木大晴(すずき・だいせい)
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パンクカルチャーと
染織家への道
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「パンクやストリート文化から多くの影響を受けてきた」と話す、染織家の鈴木大晴さん。自らのバックグラウンドを文様として描き、「糸」という柔らかい素材で織りなすことで、これまで経験してきたカルチャーを更新していく。反復するイメージ、ヴィヴィッドでありながら柔らかく調和する色使いも彼の作品の持ち味だ。15歳の時にハードコアパンクバンド「Kiima Kariis」を結成。バンド活動を続けながら京都精華大学に入学し、テキスタイルを専攻した。そんな異色の経歴をもつ彼に、染織家を目指した原体験を尋ねてみると、ユニークな回答が返ってきた。
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「子どもの時、NHKの教育番組が大好きだったんです。『みいつけた!』や『いないいないばあっ!』という番組で、スタジオのセットがポップな配色の布で作られていたのが強く印象に残っています。今振り返ってみると、その時の記憶が無意識のうちにテキスタイルを学ぶきっかけになっていたのかもしれません。“染め”も“織り”も忍耐力を伴う作業なのですが、多動気味な自分にはちょうど良かったのでしょうね(笑)」

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「“境界”や“所有”を示す金網は、本来人を遠ざけるためにあるものです。だけど、その存在は時に、金網の向こう側への興味を抱かせる場面もあります」。そんな金網が持つ二面生への関心から生まれたという作品『Evening』(2026年)。
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染織家として活動し始めた頃は「手織り」での制作にこだわっていたが、近年は「タフティング」という技法を用いて、絵を描くようにキャンバスに糸を打ち込んでいる。
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「手織りとタフティングって、仕上がりの印象はほぼ同じなんです。少し前の自分は手作業にこだわっていたので、『ずっと手織りで作り続けるぞ!』と意気込んでいましたが、河井寛次郎の『機械は新しい肉体』を読み、自分の中に新しい視点が生まれたんですよね。——金槌が其処にある。でも金槌は手と離れては金槌にはなれない——という一節も、心に刻まれました。手織りを経験したことで、糸、そして色の見方を勉強できたし、タフティングという新しい技術を取り入れることも悪くないなって思えたんです」

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東南アジア滞在中に目にした、停電時に蝋燭の灯りで生活する光景。そんな記憶から生まれた作品『Reach』(2026年)。「人の手によって光を生み出し、維持する。その営みが印象に残っています。蝋燭と指を単純化していく過程で見出した、両者の形態的な類似性を起点に制作しました」
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隠された共通項が
新しいアイデアへとつながる
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作品のモチーフとなるのは、蝋燭やチェーン、フェンスなど、自身が影響を受けてきたパンクカルチャーともリンクする攻撃的なイメージ。ハードな世界観を持つそれらのモチーフが、テキスタイルならではの柔らかな質感で表現されることで、かつてない新たなミクスチャーが生み出されている。
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「連続するパターン、一つのものが永遠に繋がっていく感覚に惹かれるのかもしれません。自分の人生の中で重要なモーメントがあるとしたら、NHKの教育番組に夢中だった幼少期、パンク音楽に出会った高校時代、そして染織を通じてパターンと向き合った大学時代。その3つのタイミングを組み合わせたような作品を作っています。文様には、長い時間をかけて受け継がれてきた歴史があります。文様を扱うことは、その歴史を辿ると同時に、自分自身の過去や記憶を振り返ることでもあると考えています。そのため、作品のタイトルには、過去を思い起こさせるようなノスタルジックな言葉を選ぶこともありますね」

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所有や境界を示すチェーンの連続する形態を、文様として捉えた作品『Keep Out』(2026年)。
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今年、MAGMA GALLERYで開催した個展では、「抜染」の技法を取り入れた作品『PATCH』も発表した。その名の通りパッチから着想を得たこの作品は、四方を縫い目で縁取られ、茶から黄、オレンジへと移り変わるグラデーションの上に黒い線の文様が浮かび上がる。
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「黒、黄色、オレンジ、灰色を混ぜて糸を染め、染め上がった時はほとんど真っ黒な状態になります。文様となる部分にだけ、ブリーチ剤をかけても色が抜けない糸を使い、最後に全体へブリーチ剤を吹きかけると、ベースの色が抜けグラデーションが生まれるんです。パンク文化の中でもブリーチという手法はよく見られます。染色にも『抜染』という同じような効果をもつ技法があって。自分の場合、なにかとなにかの共通項が見つけられた時、行動に移せるんですよね」

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『PATCH(隠しきれない興奮を磔にして見上げる、探す。)』(2026年)。個展では、計24点のタペストリーが壁一面に展示された。
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モンモリロナイトと糸
共通性から探る可能性
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はじめて手にするモンモリロナイト。その特性を調べていくうちに、保水性の高いこの素材と、水を吸収して染まる糸に、近いものを感じたという。その気付きを起点に、鈴木さんはまず、モンモリロナイトで糸を染色することに試みた。
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「はじめはモンモリロナイトを染料として使えないかと考えていたんです。水に溶かした液体に糸を漬けたり、煮出したりと試行錯誤したのですが、洗い流すと色が抜けてしまったり、乾かすとパリパリになってしまったりして。染料として使うのは難しいなという結論に至りました」

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モンモリロナイトの石と水を鍋に入れ、長時間置いておくと泥のような状態に。そこへ糸を浸し、「浸染」と呼ばれる技法での染色にトライした。
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ごつごつとした多面的な表情を
タフティングで表現すると?
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そこで糸自体を染めることは断念し、「完成した作品の上から液体状のモンモリロナイトを塗ってみてはどうだろう?」と発想を転換。鉱物であるモンモリロナイトに見立てた小さな作品の制作をスタートした。
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「まずモンモリロナイトをひとつひとつ観察しました。見る向きによって、平面的に捉えたた時のシルエットが違うのが面白いので、1つの石に対して4面くらいをデッサンで描いていきました」

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木枠に専用の基布を貼ることから作業が始まる。キャンバスのように布をピンと張り、周囲を釘で固定していく。
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布に描かれた千差万別のモンモリロナイトナイト。立体物を平面として捉えることで、不可思議な文様が生まれた。
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タフティングガンに糸を通し、下絵をなぞるように打ち込んでいく。
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糸の打ち込みが完了した状態。この後、布から外し、表面をカットして毛足を整える。
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着色前の作品。モンモリロナイトのシルエットが、小さなファブリックへと姿を変えた。
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柔らかな糸の質感に
モンモリロナイトのテクスチャーを
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真っ白な石の無機質な佇まいと、やわらかい乳白色のファブリック。生き物のような存在感を醸し出す小さなラグに、次は色をのせていく。
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「大きめのボウルにモンモリロナイトのパウダーと水を入れ、ミキサーで混ぜ合わせます。割合は水が9、モンモリロナイトが1くらいです。スプーンでその液体をかけながら染め、乾かすと、元の石そのものとはまた違う色味に仕上がりました」

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モンモリロナイトを溶かした液体で作品を着色。図らずも、〈Pedal & Senza〉の製品の色味に近い仕上がりになったのも面白い。
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二度塗りを経て、乾かした状態の作品。水分が抜けることで、また新たな表情が引き出されている。
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「作品タイトルは『Singles』。個々が集まることによって、それぞれの形や色、存在が浮かび上がってくる。そんな意味が込められています。普段、糸を染める時には化学染料や複数の薬品を使っているので、身体には良くなさそうなにおいがします。でも今回はモンモリロナイトを使ったこともあり、においも含めて安心感のある作品に仕上がりました。そのおかげか、作品を実際に持った時に、なぜかいつもより軽く感じました」
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〈column on montmorillonite〉
モンモリロナイトと布
