montmorillonite museum vol.03「モンモリロナイト・ペーパー・シザーズ」| 大野彩芽
montmorillonite museum vol.03「モンモリロナイト・ペーパー・シザーズ」| 大野彩芽

montmorillonite museum vol.03「モンモリロナイト・ペーパー・シザーズ」| 大野彩芽

photo taro hirano
text yasuko mamiya

2024.12.30

〈Pedal & Senza〉の主原料である“モンモリロナイト”を、アーティストの感性・視点を通して作品へと昇華させ、その新たな魅力と可能性に迫る連載「montmorillonite museum」。今回はコラージュアーティスト、大野彩芽による作品。紙とはさみを使ったカット&ペースト、そして写真の古典技法であるサイアノタイプ(青写真)を用いて表現したのは、モンモリロナイトの繊細な美しさ。

大野彩芽(おおの・あやめ)

コラージュアーティスト。多摩美術大学大学院 博士課程前期グラフィックデザイン領域終了後、「カット&ペースト」を活動のベースに、国内外のさまざまなメディアに作品を提供。昨年は個展『Re:Stone Paper Scissors』(東京・twililight)を開催。近年参加した展示に『MISCHEN / 混合』(東京・PLACE by Method/2024)、『EQUILIBRIUM』(ベネチア/2019年) 』『I Never Read, Art Book Fair Basel』(バーゼル/2021年)などがある。

official website www.ayameono.com

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〈column on montmorillonite〉
青い地球とモンモリロナイトの深い絆
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モンモリロナイトの起源は、
噴火した火山灰が海底に沈み
数千万年ものあいだ
堆積することから始まります。
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その生成過程で海と触れ合い、
青い地球からミネラルを受け取りながら
形作られていきます。
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そして、モンモリロナイトは
その特性を生かして土壌改良に活用され
植物を育てる力を持ち、
重金属を吸着して川や海を浄化することで、
青い地球を守り続けています。 
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インスピレーションを

掻き立てられる

石という不思議な存在

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美大に通っていた学生時代、夏休みの課題で描いた絵にふと思い立ちはさみを入れ、糊付けしてほかの紙と一緒にペタペタと貼ってみた。既存の絵をカット&ペーストして見え方を変える楽しさに気付き、しっくりこなかった自身の絵が「好きかもしれない」と思えるようになった。以来、いつもはさみを身近に置き、コラージュ作品をつくり続けてきたアーティストの大野彩芽さん。近年は石に魅せられ、作品のモチーフとして積極的に取り入れている。

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「家にはいくつか石を置いていて、なかには海外からはるばるやってきたものもあります。遠い昔から存在し、海を超えて移動して、この先もどこか別の場所に行き着くかもしれないと想像すると、なんとも言えない不思議な感情がわいてくる。石はあらゆるところに転がっているものだけど、神社でよく見る磐座(いわくら)やパワーストーンのように、人に崇められたり、心のよりどころにされたりする石があるというのも興味深いですよね」

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大野さんの部屋には、花器やオブジェに交ざって部屋のあちこちに石が置かれている。インテリアもコラージュのような感覚で自由に物を配置しているのだとか。

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“当たり前”が

逆転する面白さ

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大野さんがライフワークとして取り組む「Stone Paper Scissors」というシリーズがある。「コラージュで使うのは紙とはさみ。そこに石が加われば、じゃんけんの要素が揃う」という遊び心のある発想から生まれたシリーズで、タイトルは英語でじゃんけんを表す“Rock Paper Scissors”に由来している。

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「私はモチーフを紙にプリントして、それをカット&ペーストして作品をつくります。チョキ(はさみ)ではグー(石)が勝つのがじゃんけんのルールですが、紙にプリントされた石ははさみに切られ、負けてしまう。当たり前にあるルールの揺らぎを感じられるのが面白いと思ったんです。平面にしてしまえば石をはさみで簡単に切れてしまうことも、私にとってはくすぐられるところ。いつも紙にジョキジョキとはさみを入れながら“石を切っている!”と爽快感を味わっています。それに、石って原型とまったく違う形に切ってもちゃんと石に見える。そういう不思議さもあって、素材として惹かれるところが多いんです」

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はさみは、紙の大きさや硬さによって使い分けている。なかでも一番使い勝手が良く気に入っているのは、意外にも100均で買ったもの。

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儚さを感じさせる

白を表現するために

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今回のモンモリロナイトを着想源にした作品は「Montmorillonite-Paper-Scissors」と名付けられた。モンモリロナイトと紙と、はさみ。シリーズの延長を思わせるタイトルだが、今回はコラージュに加えて、いつもとは異なる技法が取り入れられている。

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「モンモリロナイトを実際に手にしたときに、想像していたよりも白く、粒子が細かくて表面の風合いがきれいだと感じました。普通の石なら、写真を撮って紙にプリントしてコラージュするといういつもの方法でよかったのですが、モンモリロナイトの作品をつくるなら、この石にしかないきれいさを表現するために、別の方法を試したかった。そのふわっとした白さを表すための方法として考えたのが、サイアノタイプでした」

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作品の素材となったモンモリロナイト。大野さんが惹かれたのは、この繊細な白の美しさ。

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モンモリロナイトを撮影し、その画像を出力したもの。一見、完成されたアートワークのようだが、これをさらに切り貼りしてコラージュ作品へと仕上げていく。

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予定調和ではない、

偶発的な色彩の魅力

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サイアノタイプは日光を使って印画する古典的な写真技法で、青写真とも呼ばれる。

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「モンモリロナイトを写真に撮り、それを出力してコラージュするのは普段の制作方法と同じ。今回は紙ではなく、透明のシールとOHPシートを使い、サイアノタイプのフィルムを作りました。その上に薬液を塗り、印画紙を重ねて太陽光で感光させる。露光後に水洗いをすると、像が浮かび上がってきます。

今回の作品をつくるにあたり、モンモリロナイトの特性を確かめたくて粉末に水を含ませてみたんです。やはり驚くほど水を吸収するんですね。水をイメージさせるサイアノタイプの独特な青が、モンモリロナイトらしさを表現するのにぴったりだと思いました。サイアノタイプは単色ですが、日光の当たり具合や薬液のムラによって色合いが微妙に変わってくる。また、フィルムが浮いて像がぼやけたものもありましたが、その浮遊感のある仕上がりも魅力的だと感じました。

わたしは、完璧なものより不完全なものに惹かれ、エラーとも言える偶然を作品に取り入れるのも好きなんです。これまでさまざまな石を素材に作品をつくってきましたが、モンモリロナイトというひとつの石にフォーカスできたのは新鮮な体験でした。この素敵な石と向き合えたことを嬉しく思っています」

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